うつが甘えじゃない理由:思い込みにとらわれてはいけない
2017/10/05
うつは甘えじゃなくて病気です
こんにちは、青年A(@seinen1234)です。
うつ病は骨折やガンといった目にみえる病気ではないため、「病気ではないんじゃないか」とか「気合が足りないからだ」と思われることが少なくありません。
(「うつ病を抱えていました」クリスティン・ベルの告白が多くの人を勇気付ける:アナ雪のアナの声優)
その結果、患者に対して
「根性を出して仕事に行け」
「どうしてこんな簡単な家事ができないんだ」
「ダラダラ出来ていい身分ね」
といった心ない言葉をかけてしまいます。
患者としても、
「働けないのは怠けのせいなのか?」
「簡単な家事すら出来ないなんて妻失格だ」
「仕事が出来なくて申し訳ない」
「こんなことなら死んでしまいたい」
(「うつの自殺は絶対あかん」~してはいけない4つの理由~)
といった、ひどい自己嫌悪に陥ってしまうことが多いです。
しかし、結論から言うと、うつ病は甘えじゃなくて病気です。
なぜ、うつは甘えじゃないと言えるのか…
そのことについて説明していきたいと思います。
今回もお付き合いをよろしくお願い致します。
そもそも、うつ病とは?
そもそもうつ病ってなんでしょうか?
それは脳の何らかの異常によって、精神・身体に耐えがたい苦痛を与える病気です。
(うつはこころの病気というよりカラダの病気だと思う)
症状は人によって全然違います。
「骨が折れて痛みが出ている症状=骨折」というように、「この症状=うつ病」と簡単に決められるものではありません。
症状は千差万別ですが、僕が経験した症状を記載しておきます。
(身体面)
・体が異常に重い・少し動いただけなのに疲れる
・光がまぶしく感じる・尋常じゃない首、肩の凝り
・汗がとまらない(多汗)・顎周りの筋肉の緊張…など
(精神面)
・どんなことでも自分のせいにしてしまう(極端な自責)
・自分の将来はもう終わった、と思う
・意味もなくイライラする
(うつ病で意味もなくイライラしてしまう…。その原因と5つの対処法)
・死んだら楽になると思うようになる
(『自殺って言えなかった。』(あしなが育英会):遺された遺族の想像を絶する苦しみ)
・何もやる気が起きない…など
いわゆる自律神経失調症や不定愁訴といわれる症状です。
こういった症状は、健康な人でも一時的に起きることがあります。
ですが、それは一時的です。
うつ病になると、毎日毎時間この症状に襲われ続けるのです。
(【まとめ】ぼくの鬱病の症状~こんな症状に苦しんでいました~)
まさに生き地獄です。
では、この地獄のような症状に襲われているのにどうして「甘えだ」と言ってしまうのでしょうか?
なぜ、うつを「甘え」だと言ってしまうのか?
1.健康な人でも一時的に経験したことのある症状だから
人は経験したことのないものを恐れます。
「死」を恐れるのは経験したことがないからでしょう。
子どもが初めての注射を恐れるのは、痛そうだと直感で思うからでしょう。
ガンの人にエールを送るのは、経験したことないけど辛い症状だと想像できるからでしょう。
しかし、うつ症状は、健康な人でも経験したことのある症状です。
(全てとは言いませんが)
例えば「体が重い」という症状。
これはインフルエンザの時に経験したことがあるでしょう。
体が重たすぎて、トイレに行くのもやっとだという思いをしたことがあるでしょう。
例えば、「何もやる気が起きない」という症状。
テスト前で膨大なテキストを前にして、するのが億劫になってベッドに向かった経験があるかもしれません。
また、恋人に突然別れを告げられて呆然とし、何にもやる気が起きないという経験をしたことがあるかもしれません。
こういった症状は、健常者でも経験しているものです。
そのため、うつを経験したことのない人は、自分の経験から目の前の患者の症状を想像し、「気合で治る」とか「ずいぶん休んだんだから治ったんじゃないか」と考えてしまうのです。
2.目に見えないから
骨折はレントゲンを撮れば折れているのが分かります。
ガンもレントゲンやCT,MRIを見ればガンだと分かります。
しかし、うつ病は目で見て確認できるものではありません。
それはまだ医療がうつの見える化に成功していないからです。
見える化しようとする動きはあります。
例えば光トポグラフィー検査です。
しかし精度が低く、まだ診断補助ツールでしかありません。
(光トポグラフィー検査(NIRS)とは?:オススメできない7つの理由と精神疾患の検査法)
原因は脳内の何らかの異常ですが、その「何らか」が見つけられていないのです。
だから現時点では目に見えません。
しかし、いつかは目に見えるようになるはずです。
「脳内に異常があること」は研究や実験で分かっているのですから。
3.甘えではないか?と思わせる症状や行動があるから
うつ症状や行動に「甘え」ではないか?と思わせるものがあります。
例えば、仕事には行けないけれど、軽いランニングはしている。
うつを経験したことのない人が見ると、「仕事に行けないっていうけどランニングは出来ているじゃないか、甘えなんじゃないの?」と思ってしまうかもしれません。
(うつ病の運動療法~うつの人に運動を強くオススメする4つの理由~)
例えば、何もせずにゴロゴロしている。
これも「甘え」と捉えられてしまうかもしれません。
例えば、好きなことは出来るけど、好きじゃないことは出来ない。
これも甘えと捉えられてしまうかもしれません。
仕事や家事は出来ないけれど、カフェやショッピング、旅行には行ける、といったように。
4.診断基準があいまいだから
「2.目にみえないから」と重複しますが、客観的な検査がないため、診断基準があいまいだと感じる人も少なくありません。
国際的に使用されるDSM-IVによる大うつ病性障害(うつ病)の診断基準を記載します。
(大うつ病性障害・双極性障害治療ガイドライン~”うつ”のすべてがここにある~)
・次の症状について5つ以上の症状を満たし、そのうち少なくとも1つは①または②を症状に含み、症状が2週間以上続いているかどうか?
(ここでは分かりやすいように簡略化して説明しています)
①ほぼ毎日、1日中ずっと気分が沈んでいる
②ほぼ毎日、1日中何に対しても興味がわかない
③ほぼ毎日、食欲がない、または体重が増減している
④ほぼ毎日、不眠または過眠である
⑤ほぼ毎日、動作や話し方が遅くなっている、あるいはイライラしたり落ち着きがなくなっている
⑥ほぼ毎日、疲れを感じ、気力がわかない
⑦ほぼ毎日、自分に価値がないと思う
⑧ほぼ毎日、仕事や家事に集中したり、決断することが出来なくなっている
⑨ほぼ毎日、この世から消えてしまいたいと思うことがある
「ほぼ毎日」がポイントですね。
現在、問診でうつ病は診断されており、診断基準もをあいまいだと感じた方も少なくないでしょう。
(大うつ病性障害・双極性障害治療ガイドライン~”うつ”のすべてがここにある~)
確固たる診断基準ではないため、誤診があるのも事実です。
それでも、うつは「甘え」ではありません。
うつが甘えじゃない理由
1.脳の異常が確認されているから(薬が効くから)
これだ!といううつの原因にはたどり着いていませんが、あらゆる研究や臨床で、脳の異常が確認されています。
1つは神経伝達物質の減少。
神経伝達物質とは、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンのことで、これらが減少すると、うつ症状が出ることが分かっています。
そして神経伝達物質を増やすために抗うつ薬が開発され、実際に抗うつ薬を服用したことで完治された方が大勢おられるのです。
他にはBDNF(脳由来神経栄養因子)の減少というのもあります。
神経伝達物質の減少だけではうつ病を説明できません。
抗うつ薬を服用すれば、すぐに神経伝達物質が増えますが、効果を発揮するのに2週間以上かかります。
神経伝達物質が増え、BDNFが増え、細胞の生まれ変わりが活性化してうつ症状が消失していくとも考えられています。
実際の研究でも、うつ病患者は健常者に比べてBDNFが少ない事が報告されています。
(「躁うつ病に挑む」(加藤 忠史)~うつの原因は脳由来神経栄養因子(BDNF)?~)
つまり脳の異常が確認されている病気なのです。
ですからココロの病気といいますが、ココロの症状が出ているだけであって、カラダの病気なのです。
(うつの原因はストレス?~ストレスは「原因」ではなく、「誘因」です~)
骨折やガンと何ら変わりません。
2.医師が病気だと診断しているから
精神疾患のプロフェッショナルである精神科医が診断しているのです。
「100%正しい診断をしているとは言い切れない」と思う人がいるかもしれません。
おかしな精神科医がいると思う人もいるかもしれません。
でもそれは、内科でも外科でも同じではないでしょうか?
医師の力量によって診断力・治療力が異なるのは現代医療で仕方のないことです。
(ほんとはそうだといけないのですが)
精神疾患の診断だけ「絶対間違っている」と考えるのはおかしいわけです。
精神科医は膨大な勉強をし、何百人もの患者さんと向きあっておられます。
様々な問診や触診・検査によって、他の疾患ではなく精神疾患であると、診断を確定させていくのです。
その医師が確定させた診断を「間違っている」と素人の我々が言い切れる理由がありません。
まずは医師に従って治療を続けることが大切なのです。
3.医師から休養・運動・手助けを勧められているから
甘えと思われる様子や態度は次のようなものでしょう。
「ずっと布団の中に入っている」
「仕事には行かないが、ちょっと散歩したりしている」
「家事を手伝ってと言ってくる」
…など
このような行動は単なる「甘え」でも当てはまる様子や行動のため、うつを経験したことのない人は「甘え」だと勘違いしてしまうのかもしれません。
しかし、医師が患者さんに休養・運動・手助けを勧めることはよくあります。
うつは薬だけでは治りません。
休養とセットで回復していく病気です。
(うつの休養の仕方~休養は治療の1つです~)
また、運動は抗うつ効果が科学的に確認されているので、軽い運動はうつ治療として推奨されています。
(うつ病の運動療法~うつの人に運動を強くオススメする4つの理由~)
うつになると精神・身体エネルギーがかなり低下するので、周囲の人は病気克服のために手伝ってあげることも必要です。
(『ビッグツリー~自閉症の子、うつ病の妻を守り抜いて~』(佐々木 常夫)~東レ取締役の壮絶体験記~)
「休養・運動・手助け」は、何もうつ病に限った話ではありません。
多くの病気に共通するものです。
ですから、休養・運動・手助けのようなものを患者が示したなら、
「治療なんだな」
「リハビリ中なんだな」
と、広い心を持って接してあげてほしいと思います。
患者が治療中に注意すべきこと
うつ病患者を支える周りの人だけでなく、患者も気を付けなければならないことがあります。
それをまとめておきます。
1.治療中だからといって「遊びすぎ」ないこと
治療中だから何をしても許される、というわけではありません。
海外旅行に行ってみたり、遠くにドライブに行ってみたりすれば、「甘え」だと思われても仕方ありません。
周囲の人は、あなたが治療に専念できるように仕事をしてお金を稼いだり、あなたの分の仕事をしたり、家事をしたりしてくれています。
相手の立場を考えて、常識的な範囲で行動するようにしましょう。
2.治療として休養・運動・手助けを必要していると話しておこう
血のつながった家族でさえ、相手の心を読むことはできません。
「どうして分かってくれないの?」
と思うことがあるかと思いますが、話さないと分かりません。
おそらく相手はうつ病を経験したことがないのですから。
(「本当に伝えたい事は言葉で伝えよう。」より)
伝え方は、感情的にならずに相手も自分も大切にしたコミュニケーションを取るようにします。
その方法は以下を参考にしてください。
アサーションを知ろう~I’m OK, You’re OK!な表現技法~
自分は治療のために、休養・運動・手助けを必要としていると話して理解してもらえば、「甘え」だと思われずに済むでしょう。
どうしても話し合いが難しい場合は診察についてきてもらうのもオススメです。
医師からの説明を受けたほうが説得力が増すためです。
おわりに
うつ病を経験してみて、うつはマラソンのようなものだと思いました。
完走まで長い道のりですし、途中で水分補給といった周りの援助も必要です。
僕も仲の良い家族から誤解されたことがありました。
本が読めるくらいに回復してきたので、図書館で本を読んだりして帰ってくると、「仕事はまだしないのか?」といったような言葉を父からかけられました。
今すぐに仕事を再開すれば、また地獄のような症状が出ることが感覚的に分かります。
「どうして父は分かってくれないんだ」と歯がゆく、そして何もできない自分を恨みました。
しかし、あなたのカラダが一番大切です。
治すことが先決です。
健常者のように動くことは出来ないかもしれないけど、できる範囲で「今しかできないこと」をすればいいと思います。
読書をして知識を高めるのもいいでしょうし、この機会に軽く運動をして強いカラダづくりをしてもいいでしょう。
趣味に時間を割いてもいいと思います。
(生きがいをもとう、つくろう!~うつ病療養中の方へ~)
うつになって「タダでは起きないぞ」といった気持ちで僕はいました。
参考になれば幸いです。
今回もありがとうございました。