『この地獄を生きるのだ』:うつ病、生活保護の残酷でリアルな生活が分かる良書
目次
今月号を出したら、死のう
こんにちは、青年A(@seinen1234)です。
本日は、長時間労働からのうつ病、生活保護受給者のリアルな生活と心情が分かるおすすめ本をご紹介します。
それは小林エリコさんの著書『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』です。
漫画好きで入社した会社がまさかのエロ漫画の会社で面食らい、ボーナスが出ると聞いていたのに貰えなくて手取り12万円の生活。
長時間労働もあって心身が消耗し、壊れていく話が語られています。
どん底で何回も自殺未遂を繰り返した小林エリコさんが如何にして地獄から蘇ったか。
生活保護受給者の生活や想いはどんなものなのか?
この本を読むまで僕は知りませんでした。
ぶっちゃけ、働かずにお金が貰える生活保護が羨ましいと思っていたんです。
(【闘病記】うつ病と顎関節症)
しかし現実はエグいほど監視され、ひもじい思いをするようです。
いつもの通り、本書の一部を抜粋してご紹介していきますので、よろしくお願いします。
『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』
精神病院に入院
自殺未遂を起こして実家に戻ったとき、私は21歳だった。
東京のアパートで大量に薬を飲んで寝ている私を友人が発見し、救急車で大学病院に運ばれた。
3日間、意識不明で生死の境をさまよったのち、一命をとりとめた。
医者からは「精神病院に入院するように」と告げられた。
精神病院での生活は退屈で、そして悲惨なものだった。
最初の頃は散歩もさせてもらえず、病棟に閉じ込められた。
突然、全身がこわばり、看護師に不調を訴えると説明もなく注射を打たれる。
入院している他の患者さんに話を聞くと「5年間入院している」という。
私は自分の未来を想像し、一抹の恐ろしさを感じた。
最近の精神病棟は昔のような暗いところではないと聞きますが、まだこんな病棟もあるんだと思いました。
精神病院はどこも満杯なので、空いている病院には何かしら理由があるのかもしれません。
小林エリコさんの病院の場合、退院するには「いい患者」、すなわち「看護師に迷惑をかけない患者」でいる必要があり、出来るだけ他の患者と揉め事を起こさず過ごしたらしい。
明らかに相手が悪くてもベッドの中で泣きながら我慢し、その甲斐あって3ヶ月で退院することが出来たようです。
職にありつけず、自殺未遂を繰り返す日々
いくらか体調がよくなったので、そろそろ働こうと思い、アルバイトの面接に応募した。
前の仕事を辞めた理由を聞かれ、本当の理由は言えず「体調を崩したので」と答えたが、結局は受からなかった。
この年齢で、実家暮らしでアルバイトを始めるのは、世間から見たら奇妙なことなのだろうか。
一度の自殺未遂で狂ってしまった人生の歯車はもう元にはもどらない。
その後も面接を受け続けたものの、すべて落とされた。
私は溜め込んでいた向精神薬を一気に飲んだ。
「ウソも方便」という言葉がありますが、体調を崩したという退職理由を話すと採用されにくくなるでしょう。
採用担当者は「ウチでもすぐ辞めてしまうのでは?」と不安になるからです。
病歴や退職理由は個人情報です。
別に全てを赤の他人に話す必要はないんです。
綺麗事だけでは世渡りできないのかもしれませんね。
僕も「うつ病で退職しました」と告げずに新しい職場に飛び込みました。
(うつをカミングアウトして働くべきか?│僕が告白しなかった4つの理由)
アルバイトから社会復帰しましたが、働きながら体調が回復していき、結果的として正社員になれたんです。
(うつの復職はアルバイトから始めてみては?おすすめ求人サイトとバイトをすすめる7つの理由)
自殺未遂は医療費10割負担
自殺未遂の場合は健康保険が適用されず、医療費を10割払わなければならない。
繰り返しの自殺未遂で身体もボロボロだ。
自殺未遂は健康保険が適用されないのを初めて知りました。
今も適用されないのか分かりませんが、ただでさえ心身がボロボロで自殺未遂するのに医療費10割負担なんて地獄に地獄を重ねるようなものだと思います。
このあたりは行政が整備して医療費3割負担にしてあげる必要があるんじゃないでしょうか。
金儲け主義のクリニック
「小林さん、いつまでも実家にいないで1人暮らししなさいよ」
ある日、クリニックから電話がかかってきた。
生まれ変わらなければいけない。
家を出よう。
「実家を出たいです。出られるんですか?」
「出られるわよ。仕事を探せばいいし、なんなら生活保護っていうのもあるのよ」
僕は心療内科・精神科に長いこと通いましたが、精神患者に1人暮らしを勧めるのは聞いたことがないです。
1人暮らしをすると実家暮らしよりお金がかかることが多いのに、どうして1人暮らしを勧めるのか分かりません。
病気で自立できないから実家にいるのにひとり暮らしを勧めるのは、なにか魂胆があるに違いない。
ここまで読み進めてそう思いました。
デイケアばかりさせるクリニック
私は就労に向けて動き始めるのを待っていた。
スタッフは母に「必ず就労させます」と約束していた。
だからこそ、私は家を出ることが許されたのだ。
「仕事はもうちょっとちゃんとデイケアに通えるようになったらね」
そう言われると、ますますデイケアに真面目に通った。
約束をスタッフが破るはずがないと私は思っていた。
そんな日々を半年ほど続けたものの、なおもクリニックのスタッフから具体的な就労の話が出てこないことに対して不安が芽生え始めた。
「仕送りが来月で途絶えます。収入は障害年金だけになってしまいます。どうやって生活をしていけばいいんでしょうか」
「そうね、障害年金だけじゃ生活できないわね。あなたの場合は生活保護がいいと思うわよ。」
あまりにあっさりとした返答だった。
まるで最初から生活保護を受けることが決まっていたかのようだった。
「受けるなら銀行の貯金が減ってからのほうがいいから、いまあるお金で電化製品を買い替えなさい」
「電化製品を買い換えるんですか?お金がないのに?」
「これから買えなくなるのよ。いまのうちに買っておきなさい。貯金が5万円以下になったら、また相談に来て」
にわかに信じがたいクリニックの発言です。
未だにこんな悪徳医院があるのかとゾッとします。
何もしないケースワーカー
生活保護を受け始めてわかったのは、この先に明るい未来などないということだった。
ケースワーカーは訪問しに来るだけで、今後の就労について話すことは一切なかった。
月に一度ふいにやって来ると、「体調はいいですか」と、玄関先で質問をする。
「元気です」
そう答えると書類にメモをして、足早に去っていった。
もう一度外の世界とつながるには働かなければいけないのに、役人は何も教えてくれない。
「私は一生、生活保護のままで、このアパートで暮らすんだ」と思ったら、目の前が真っ暗になった。
生活保護を受けているうしろめたさから娯楽を楽しむことができなくなったのだ。
錠剤を箱から出して飲み始めた。
いつも飲んでいる向精神薬と違って大きい錠剤なので飲みにくい。
未遂で終わってはいけない。
全部飲めるだろうかと不安になった。
錠剤を水でがぶがぶ飲み干すと、疲れ切って、横になった。
目を覚ますと、私は救急病院に搬送されていた。
悲鳴をあげるように泣く母を見て、私は情けなくなった。
涙も、ごめんなさいの言葉も出なかった。
私は泣き方も忘れていた。
漫画の単行本をつくる仕事
自殺未遂を経てデイケアは出入り禁止になったが、クリニックの精神科には外来患者として通わせてもらえることになった。
そんな日々を過ごしていた頃、クリニックの待合室で、あるNPOが発行している雑誌に目が留まった。
メンタルヘルスに関する本をたくさん出版しているようだ。
私はこのNPOに電話をしてみることにした。
元編集者だから雇ってもらえるのではないかと思ったのだ。
後日、NPOから連絡が届いた。
「漫画の単行本の制作を手伝ってほしい」
驚きと嬉しさと緊張で心がもつれた。
「自分が社会に必要とされている」ということへの、喜びのバイブレーションだ。
やっぱり、人間は仕事をしないとだめですね。
仕事は辛いこともあるけど喜びをもたらす素晴らしいものでもあります。
(『うつ病で半年間寝たきりだった僕が、PC一台で世界を自由に飛び回るようになった話』(阪口裕樹))
最初はボランティア採用だった小林エリコさんですが、働きが認められて非常勤雇用になることが決定した。
ボランティアの時は、私は報酬に値しない人間なのだろうかと悩んだ事もあったけど、「漫画が完成してここを去るまでボランティアとして居続けさせてもらおう。この仕事は自分のリハビリになる」と信じて続けたようです。
普通に働き、普通に生きる
1月25日、私は約10年ぶりにお給料をもらった。
小さな給料袋には私の名前が書かれていた。
ああ、そうだ、お給料袋って小さいんだよな。」帰り道、銀行に寄り、早速記帳した。
お給料はきちんと振り込まれていた。
当たり前のことだけれど、泣きなくなるくらい感動した。
家路を急ぐ途中、スーパーに立ち寄る。
奮発してビールを買った。
夕方になって割引されているお刺身を買った。
家について、ビールを開けて喉に流し込むと、喉がグビグビと音を立てる。
一人きりのアパートで一人きりの復職祝い。
他人から見たら、滑稽かもしれないけど、私はとても幸せだった。
給料袋を渡すとき、私の上司はこう言った。
「働けたのにいままでもったいなかったね」
私は泣きそうになった。
そうだ、私は働けたんだ。
おわりに
決まった時間に起きて、電車に乗る。
行くところがあるというのは幸せなことかもしれない。
普通に働いて、普通に生きる。
その「普通」を手に入れるのがいかに困難なことかを知ったようです。
僕もうつ病で長く働けなかったんで、「普通」にどれだけ憧れ、羨ましく思ったことか。
本書は文字がメインの小説風に語られており、最後は小林エリコさんお得意の漫画で当時のことを書いてくださっています。
今回ご紹介した内容は本書の一部にすぎず、ケースワーカーの対応の酷さやクリニックの金儲けに患者を利用する様子がリアルに表現されています。
そして生活保護の残酷さも実体験ベースで告白しているので、同じ境遇の方や精神疾患でお悩みの方には参考となるオススメ本です。
皆様の健康を祈って本日も終了とさせていただきます。
ありがとうございました。