【うつ病の問診】いずれうつ病の分類は細分化され、それぞれ別の治療がなされるだろう│うつ病治療の課題
目次
- 1 今のうつ病治療の限界
- 2 うつ病の問診
- 2.1 青年A
- 2.2 先生
- 2.3 青年A
- 2.4 先生
- 2.5 青年A
- 2.6 先生
- 2.7 青年A
- 2.8 先生
- 2.9 青年A
- 2.10 先生
- 2.11 青年A
- 2.12 先生
- 2.13 青年A
- 2.14 先生
- 2.15 青年A
- 2.16 先生
- 2.17 青年A
- 2.18 先生
- 2.19 青年A
- 2.20 先生
- 2.21 青年A
- 2.22 先生
- 2.23 青年A
- 2.24 先生
- 2.25 青年A
- 2.26 先生
- 2.27 青年A
- 2.28 先生
- 2.29 青年A
- 2.30 先生
- 2.31 青年A
- 2.32 先生
- 2.33 青年A
- 2.34 先生
- 2.35 青年A
- 2.36 先生
- 2.37 青年A
- 2.38 先生
- 2.39 青年A
- 2.40 先生
- 2.41 青年A
- 2.42 先生
- 2.43 青年A
- 3 おわりに
今のうつ病治療の限界
こんにちは、青年A (@seinen1234) です。
今回も、精神科の先生との問診ストーリーです。
(【問診】うつ、顎関節症の問診記録)
よろしくお願いします。
うつ病の問診
青年A
ここ最近、精神的にきつかったので、急遽診てもらいに来ました。
東京から戻って5,6年、浪人時代からだと12,3年ぐらい経ちました。
それでも、いまだに症状が続いている事に不安を感じています。
1年単位で振り返ると症状は減ってますが、「僕は一生このままなのか?」とか「僕は本当にうつ病なのか?」、「別の病気ではないのか?」とか思って落ち込んでいます。
先生
そうですね…無理はないですよね。
青年A
最近の落ち込みでいうと、給料が上がらなかった事や友達の結婚式に参加して、自分が未婚である事実を叩きつけられた事とかがありました。
僕…病気に関しては「うつ病」で間違いないですよね?
先生
そうですね…今の医学的な概念からいうと「そうせざるを得ない」ですね。
将来的には、うつ病はもっと細分化されるでしょう。
予後や状態別に分けて精緻になるかと。
ただ、今のところ生物学的な鑑別方法がないので。
例えば肝臓の病気だと、炎症性疾患やウイルス性肝炎、自己免疫性の肝炎とか、複数の原因があります。
それは医学が進んできたから分かってきたことですね。
青年A
そうですね。
先生
昔は全部「肝炎」でした。
今、うつ病と一括にしてる中にも実は色んな原因があるはずなんですけど、それが分からないんです。
だから今の医学的な概念でいうと「うつ病」としか言いようがないんです。
で、よく「うつは心の風邪じゃないの?」と言われますが、実際にすぐ治る人もいます。
例えば、初めてうつ病になりました。しかも会社のパワハラが原因です。
この場合、抗うつ剤を投与してパワハラが終われば、85%再発しないですよ。
でも15%は再発します。
で、その50%は3回目も再発します。
1回目のうつエピソードで、予後良好群と予後不良群に分けれたらいいんですけど、分けられへんのです、症状が一緒なので。
ただ多分、それぞれ同じうつ病じゃなくて違う病気なんです。
臨床実感としては、予後良好群と不良群の2パターンあって、不良群は正直、治療期間がかなり長くなります。
青年A
そうなんですね。
先生
研究の結果を見ても、スターディーというて、6,000人のうつ病患者の予後を追いかけた研究があります。
最初の1年で寛解したのは6割です。
残りの4割中、2年時点で比較的良好な状態を保てたのは3割ぐらいです。
残りの7割は、2年以上も深刻なうつ病に悩まされてるわけです。
うつ病というのは、そんなに甘い病気(経過)ではないんです。
ただ、中には予後良好群があるので、そこに騙されるんです。
うつ病でも初回エピソードで原因がはっきり特定出来てる予後良好群は、私もいっぱい経験してます。
その一方で、再発を繰り返して長期化する患者さんも多くて、普段診てる患者さんはそういった方ばかりです。
青年A
なるほど。
先生
予後良好群は卒業していくので。
普段、我々が診てるのは、再発例や慢性化例が多いです。
そういった方々の経過はよくないです。
仕事出来てるケースは結構、チャンピオンケースです。本当言うたらね。
慰めにならへんかもですが。
青年A
そうですね。
先生
肝炎に例えたら、自己免疫性肝炎が最も予後が悪いとしたら、それを見抜く方法が我々にないので。
あと、抗うつ剤の選択に関しても、随伴する症状によって分けてます。
身体的症状が強い場合はサインバルタを使う事が多いです。
実際、身体的不快感が減りましたよね?
青年A
そうですね。
先生
これ以上に身体的な不快感を取り除く抗うつ剤があるかといえば、ないですね。
青年A
僕がうつ病じゃなく双極性障害の可能性自体はあるんですか?
先生
あるのはあります。
青年A
もしそうなら、別の薬を使うわけですよね?
先生
そうです。
青年A
違う薬に変えたからといって、身体症状が消えるわけではないですよね?
先生
ないですね。
もし双極性障害と分かれば、もっと予後が悪いです。
当クリニックの双極性障害の人で、正社員として働いているのは10人に1人ぐらいです。
青年A
そうなんですね。
先生
半分ぐらいのケースは自己破産してます。
一昔前のデータですが、初診時にうつ病と診断された後、双極性障害に切り替わる平均期間は10年です。
最近はもう少し短くなってますが、それほど見抜きにくいです。
診断変更される時には、既にかなりのハンディキャップを背負ってますから。
青年Aさんの場合、今の段階で双極性障害の治療するのは過剰診断かもしれませんね。
青年A
なるほど。
将来的にはうつ病の分類も変わりそうですね。
先生
そうですね。変わりますし、変わるべきだと思います。
遺伝子解析や画像診断、髄液取ってBDNFや成長因子を調べたりしてますが、まだ効果的な分類が出来ていないのが現状です。
青年A
むちゃくちゃ難しい病気なんですね。
先生
むちゃくちゃ難しいですし、今の分類体系が間違ってるんですよ。
多分、うつ病の診断基準が間違ってるんです。
我々はDSMというアメリカ精神医学会が作成した基準で診断してますが、その基準を35年ほど使ってるんです。
マイナーチェンジはあるにせよ。
ただ、その基準に逆らって勝手に病名つけることは出来ないので。
でも頭の中では、この人予後良好群、中間群、不良群、この人双極に移行するとか思って診療してます。
それは診断基準に則ってないですよ。
これは臨床経験に基づいてやってます。
でもそれってどうなんだろうと思いますね。
例えば内科疾患をみると、どんどん細分化されて原因も分かってきて診療ガイドラインもきっちりしたものが出来てきてます。
それは憧れですわ。
青年A
なるほど(笑)
本当に脳って難しいですね。
先生
セロトニンやノルアドレナリンが大切と言われますが、それが思考や感情、行動にどう影響するかは完全にブラックボックスです。
肺炎なら、細菌殺す抗生物質飲む…これは一直線に結びついてます。
肺の炎症、原因は細菌。なら細菌を殺す薬剤を投与するという生物学的な首尾一貫性があるんです。
でも精神疾患は、どうやら脳の生物学的な異常があって薬が効くと。
症状が意欲低下、集中困難、感情の欠如や様々な身体症状などがありますと。
どうやら薬を投与すると症状が低減するけど、なぜ低減したのかはっきり分からないわけです。
症状の組み合わせだけで「この薬が効くはずだ」と思って投与しても、全く効かない患者さんもいます。
現状、効く人、効かない人の鑑別も事前に出来ません。
なので、うつ病の分類を変える必要があります。
臨床でのヒット率が低すぎるから全く根本から変えなあかんねんけど、誰もそのアイデアがない状態です。
青年A
先生は経験則に則って診療されてるわけですね。
先生
私にDSMを改定させてくれるなら全く違うものにします。
治療と結びつく形で変えるでしょう。
例えば、うつ病患者に抗うつ剤を出すと自殺率が上がるんですよ。これ、おかしくないですか?
青年A
確かに。
先生
でも、うつ病の診断が付いたら抗うつ剤で治療しないといけないんです。
でも自殺率が上がるんです。
自殺のハイリスク群とノーリスク群でまず分けなさいと。思いません?
でも、うつ病の診断がついたら、治療の第一選択肢は抗うつ剤になるんです。
ハイリスク群には抗うつ薬を出すべきじゃないんで。
治療的な一貫性からいうと、ハイリスク群はうつ病診断から外すべきなんです。
青年A
違う病気ですと?
先生
そうです。
はっきりした原因が分からないので、ウイルス性とか自己免疫性とか具体的に分けれないですが。
治療的な合理性からいうと、分けるべきだと思います。
それをまずやって、そこから研究をやり直すと生物学的な違いが見えてくると思います。
青年A
そういう事なんですね。
先生
ただ、自殺のハイリスク群に対して抗うつ剤を投与しないという選択は出来るので。
その裁量は我々にあるはずなんで。
患者の命を危険にさらしてまで投与したりはしないです。
僕も医師になって35年ですが、35年もやってると色々見えてくるんです。
日々臨床で感じることと、診断基準やガイドラインが合ってないと痛感します。
青年A
なるほど。
予後不良群はじっくりじっくり時間をかけて治療する必要があるんですね。
ただ、全く症状が消えていないかというとそうでもないので。
ある程度ちょっとずつでも良くなってる気はします。
先生
ある程度…年単位で改善の実感があるんであれば、このまま根気よく治療を続けるのがいいでしょう。
そのうち、自身のとりまく環境要因も変化しますし。
例えば彼女見つかって結婚したりすると、安定することもあるので。
男性の場合は独身よりも配偶者がいるほうが予後がいいケースが多いです。
青年A
そうなんですね。
先生
そういう社会的な要因の変化も治療薬並に効果があったりするんです。
それが体の病気と違うところですよね。
青年A
そうですね。
先生
心理的な側面が大きいので。支えがあるかないかでだいぶ違います。
薬だけが合ってる合ってないじゃなくて、これからはご自分にとって合ってる仕事をするとか、安心できる家庭があるとか、そっちが大事になると思います。
うつの年数が長いので、気になるのは仕方ないですけどね。
ただ、調べても、今私が言ったこと以上のことは出てこないと思います。
青年A
すごくいい話が聞けました。
ありがとうございました。
おわりに
お読みいただき、ありがとうございました。